◆ 今回騙されたのは「神戸新聞」
以前「永久機関詐欺というのがあります」という記事を書きました。これは「産経新聞」が永久機関というありえない仕組みに騙されたという話でした。さて、今回はその続編です。今回騙されたのは神戸新聞です。(とりあえずリンクをここに貼っておきますが、神戸新聞がまともな新聞社であればいずれ削除されるでしょう。)
◆ 記事によればこんな装置
この記事では以下のようにこの装置を紹介しています。(写真および記事は神戸新聞が著作権を持っているはずですが、「詐欺」に使われる可能性があるのであえて掲載の許諾を得ずに引用させていただきました。)
海洋発電装置は、大型船のような海上浮遊物と海中の発電機2基、海中の配管で構成される。
まず、海水が海上浮遊物に付設した配管に入り、水の勢いでタービンを回して発電。海水はその後、潜水艦のような耐圧容器に入った海中に向けて配管内を落下し、発電機のタービンを回す。電気は海底ケーブルなどから陸上に送電し、海水はモーターを使って容器外に排出する。
記事によればこの装置を「発明」したのは神戸大学大学院海事科学研究科の西岡俊久教授。少なくともこの私よりも一般の人は信じてしまいそうな大学のセンセイです。ところがどっこい、こんな装置でエネルギーは取り出せるわけはないのです。一言で言うならば
永久機関は存在しない
からです。しかしそんな説明では納得しない人も多いでしょう。そこで簡単にうまくいかない理由を説明します。この装置によれば、海底に設置した中が空洞の「耐圧容器」をおきます。そして海面につながったパイプを使って水を一気に耐圧容器に流すのですが、その途中でパイプを流れる水の勢いを使い、タービンを回して発電する、ということらしいのです。当然水がこの容器に流れ込むわけですから、「当初」は発電できるでしょう。しかしです。いずれ容器の中は水で満たされてしまいます。記事によればその水は「排水すればいい」とあります。「排水」すればまた、上から水を流しこめるので発電が続けられる・・・と。
◆ なぜ連続してエネルギーを取り出せないのか
仮に今、容器とパイプが水で満たされているとしましょう。そして何らかの方法で「排水」し、容器もパイプも空の状態に戻したいとします。どうすればいいいでしょうか。一つの簡単な方法として海面に出ているパイプから空気を送り水を吐き出させる、というやりかたが考えられます。しかしそれにはものすごく大きな力が必要だということが想像できるでしょう。そして実際に計算をすると、必ず排水に必要なエネルギーは取り出せる(発電する)エネルギーを下回ることがない、ということが示せます。その計算は難しいものではありません。
言いかえれば、もしこのセンセイがまともな学者であり、この装置で発電、すなわち使うエネルギーよりも大きなエネルギーが取り出せると主張するならば、その計算を論文で示さなければなりません。ところが100%そのような計算はできないはずです。(計算できないので当然発表せずに「何となくエネルギーが取り出せるような感じがするでしょう?」という議論で終わっています。)
◆ 小学2年生の時の思い出
私が小学2年生の時、ある「装置」を考え出しました。当時(今でもそうですが)私はとにかく「理科」が大好きで、私にとってのおもちゃは磁石やモーター、電池に模型エンジン(そう、小学生低学年で模型用のエンジンをいじっていた)だったのです。ですから直流モーターを回せば、発電できることを知っていました。そしてこの装置を思いついたのです。
モーターが回るとそのモーターが発電機を動かし、その電気でモーターが回る、というものです。(バッテリーを途中に入れたのははじめにモーターを動かす為です)この仕組みを父に話すとニヤニヤしながらこう言ったのです。
それ、明日先生に聞いてみなさい。
今から思うと父は息子のこの「発明」が嬉しかったのでしょう。結論はわかっていたにもかかわらず学校の先生に聞かせたかったに違いありません。そして翌日、私は上野正先生に説明をしました。上野先生は理科教室を管理する理科教育に熱心な先生で、私の話を真剣に聞いてくれました。そしてこう教えてくれたのです。(用語は小学生にもわかるように工夫さえれていたとは思いますが)
とても面白い。しかし一つわかっていることがあって、取り出すエネルギーはつぎ込むエネルギーを越えることができないんだ。だから残念ながらこれはいつか止まってしまう。
その後物理を勉強するようになり、このときに受けた説明が「永久機関は存在しない」という基本原理だということを知ったのです。
◆ エネルギーは無からは生まれない
エネルギーを取り出すには、取り出したものと同じだけのエネルギーがどこかで減らなくてはいけません。(エネルギー保存の法則)。石油を燃やすとエネルギーが取り出せます。しかし、化学反応により石油の内部にあった化学的なエネルギーが減っています。水力発電でエネルギーを取りだすと、水の持っていた位置エネルギーが減ります。そしてその水の位置エネルギーは太陽のエネルギーにより水が蒸発し、雨となり、ダムにたまったのです。原子力で発電すると核燃料の質量が減ります。(質量とエネルギーは同じものです)・・・・では、神戸大学のセンセイの装置では取り出すエネルギーはどこから来たのでしょうか???
ところでこのセンセイ、正気なのでしょうか。可能性としては以下が考えられます。
- 頭がおかしくなってしまった
- 物理のいろはを知らなかった
- 素人を騙してお金を集めようとしている
さて、どれでしょう。
◆ 騙され続ける私たち
産経新聞や神戸新聞だかではありません。何百年も昔から、多くの人たちが騙され続けているのがこの「夢の永久機関」です。何の代償もなく無尽蔵にエネルギーを取り出せる仕組みです。そして多くの場合、投資家を募るのがこの騙しのプロが置きなうパターンです。少しだけ科学的な知識があればこのような記事を書くこともなければ、騙されることもないのに実に残念です。
世の中には科学的とは思えないような多くの似非情報が氾濫しています。そしてこれからもそういう情報に私たちはまどわされるのでしょうか。
正しいことを言っても信じてもらえないことも・・・よくある // 2012年06月05日 00:16
[...] 詳細は以前の私の記事を読んでもらうとして、一言で突っ込みを入れます。「船にある海面の潮流の力を利用する発電機などでポンプを動かし、配管を落ちた水を放出する」というなら [...]