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いなもと りゅう 著
小説「美穂の旅 中村美穂の旅立ち」
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第一章

私は中村美穂。30歳。OL。独身。

私は美穂の旅の会員。I-Modeで楽しんでいる。ただちょっとだけ秘密がある。実は私、男性ということで登録している。どうしてかって。基本的に私、男性の友情に憧れているから。男の男の熱い友情。う〜ん、シビレルなぁ・・・・・
登録名はヨシオ。分身名は友情第一。

今、最も親しいメル友は、分身名エタロー。彼とは美穂の旅サイト上のタイ/アユタヤで知り合った。メールのやりとりは以下のとおり。

「はじめまして。僕は、エタローの友達です。24歳です。友情第一さんの名前、いいですね。うちのエタローが、アユタヤで友情第一さんとお会いしました。男同士の出会い。これも何かの縁ということでメール出しました。本当は女の子が良かったなと思っていたりして(笑い)。これからは、"友情第一さんの友達"という言い方ではなく、そのまま友情第一さんと呼ばせてください。僕のこともエタローと呼んでください。」

「了解。こちらもはじめまして。俺は30歳だから君よりアニキだね。実際にはアユタヤには行ったことはないけど、奇遇ってことにしよう。仕事はシステムエンジニア。毎日、毎日、デスクワーク。だんだん飽きるよね。職場の友との会話も新鮮味がないし、時々メール交換しようぜ。」

「僕もシステムエンジニア。といってもまだ成りたてで失敗ばかり。あまり才能にも自信はなくて。性格は女々しくて根暗。誰かに頼って生きていくってタイプ。正直自分にはあきらめています。こんな自己紹介、メル友になるのも嫌になっちゃいますか。でも社会人の先輩として何卒よろしくお願いします。」

なんて、情けない奴。その後の何回かのメール交信は、やっぱり女々しく、根暗だった。でも、何故か引き込まれてしまう。

「友情第一さん。今日も仕事に失敗。僕にも言い訳があるのに、誰も聞いてくれないんだ。友情第一さんは、仕事充実していますか?。充実しているんだろうな。いいな。僕の失敗は永遠に続くんだろうな。」

「エタロー!また愚痴? 俺は充実しているよ。仕事は嫌いじゃないからね。たまにはメールで何か自慢したら。いつもいつもそういう態度だと女にももてないぞ。まあ、俺から言えることは、とにかく、クヨクヨするなということ。嫌なことは忘れろ!ってこと。そう、ちょっと変わった言い方をすると、何でも自分で解決しようと思うなってことかな。必ず、時間が解決してくれるということ。安心して失敗して、上司やお客さんにう謝っておけば。世の中、永遠なんてものは有り得ない。」

「いつもいつも友情第一さんには元気づけられます。ありがとうございます。自分で解決しようと思うなっていう考え方はおもしろいですね。それって、何かを達観しないと、そういう考え方にならないですよね。」

励ますのもだんだん疲れたので、もう、この人とのメールはおしまいにしようと思った。


 

第二章

私は中村美穂。

−朝、会社にて−
私の会社はシステムエンジニアリング会社。特に銀行さんがお得意様。私の肩書きはチーフエンジニア。一応グル−プ長で、それなりに責任のある立場。仕事は好きで、気に入っている。残業もたっぷりあるけれど、充実感がたまらない。会社の信頼も厚く・・・・・・なんて順風満帆の人生だろう・・・
と思ったら、大間違い。男がいない。そう、私は彼氏いない歴30年なのだ。

自分でいうのもなんなのだが、そこそこの美人で頭も切れる。気立ては同姓の間から好かれている(ようなので)、決して悪くないはずなんだけど・・・
別に、彼氏がいないことが、深刻とは思っていないし、学生時代の友達でもう離婚しちゃっている人もいれば、恋=結婚だけが人生でもなし。特に私は男の友情に憧れている変なOLだから、ますます、恋愛から遠いのかもしれない。少子化の低下に大きく貢献しており、少なくとも母は嘆いている。さあ、仕事、仕事。

今日は、他部署から"使い物ならないダメ男"と称されている男性社員が配属(飛ばされて)されてくる。私が専属の教育係らしい。お荷物だなぁ〜。
早速、我が部の部長さんとそれらしき男が入ってきた。

「おはようございます。みなさん。本日は、我が部に新しく配属になった、精鋭を紹介します。本多幸太郎君です。本多君はまだ24歳。最難関の○○大学の情報工学部を卒業した逸材です。よろいしくお願いします。本多君も挨拶するかね。」

わー。すごい緊張してる・・・・・。大丈夫かな、この人。

「は、はい。僕が本多です。・・・・。本が多いと書きます。でも本に田んぼでも僕は、僕は、僕は、平気です。・・・・・」

聞いているだけで気の毒になってきたので、聞くのをやめた。
彼のあいさつの後、部長から呼び出され、部長室に行った。

「中村君。聞いていると思うけれど、本多君のこと、なんとかしてやってくれないか? 彼は頭はいいんだがとにかくドジなんだ。何をやらしても。君なら、なんとかフォローしてもらえるんじゃないか・・・・と期待しているんだ。当面、君と一緒に仕事してくれ。」

本来なら、「そんな奴押し付けないでください」とでも言うところだろうが、部長の顔が、あまりに困った顔をしていたもので、言い出せなかった。



−夜、自宅にて−
私のI-Modeに、また、エタローからメール。でももう返信はしない。だから、内容も見ない。削除しようと思ったが、・・・最後だけ、と読んでみることにした。

「友情第一さん。今日から部署が変わりました。すごくハッピーな気分です。なぜなら、すごくいい人と一緒に仕事ができそうだから。女性の先輩ですが、とっても頼りがいのありそうな人なんです。僕を支えてくれそう・・・・。明日から会社に行くことが楽しみです。」

相変わらず情けない話、しかし、私は一瞬体の中をイナズマが走るのを感じてしまった。まさか・・・エタローと幸太郎って同一人物? まさか・・・・、そんな偶然。しかし、シチュエーションがそっくりなのだ。

第三章

私は中村美穂。

昨日のエタローからのメール、返信はしていない。まさか同一人物? 今日必ず確認してやるぞ。

「おはよう、本多君。早速、今日はお客さんとのミーティングよ。××銀行の情報開発部、大事なお客様。この資料を至急読んでおいて頂戴。」

資料を渡したあとで、付け加えた。

「今日の夜、空いてる?歓迎会してあげる。」
「ありがとうございます。空いてます。」

ミーティングが終了したのが、6時過ぎ。そのまま歓迎会に流れた。二人だけの歓迎会。とにかく、エタローと幸太郎の関係を聞き出さねば。

ビールで乾杯。焼酎の梅割も注文していた。

「本多君。あなた、今日のミーティングで一言もしゃべらなかったわよね。資料はちゃんと読んだ。」

「すいません。話を切り出すタイミングが難しすぎて・・・」

私は、まずはこの情けなさに対し、バーンと喝を入れてやろうと思い彼の顔を覗き込んだ。その時だった。ショックだった。彼の目が美しすぎた。なんて透明で澄んでいる瞳なんだろう。私は、彼氏いない歴30年。恋愛免疫はほぼ"ゼロ"
さらにその時、気が付いた。私は生まれてはじめて、男性と二人だけで飲みに来ていた。傍から見たら、まぎれもなく恋人同士だ。何も言えず、めまいが襲ってきた。

「大丈夫ですか。」

状況を察してか幸太郎氏が一言添えてくれた。そして彼の方から話し始めた。

「中村先輩は"美穂の旅"というサイト知っていますか?僕は大好きなんです。自分の分身がコンピューター上で"旅"をするサイトで、旅先でいろいろな方の分身に遭遇するんですよ。楽しいですよ。その中で、僕と同じシステムエンジニアの方がいて、その方は僕のあこがれの方なんですよ。想像ですけれどね。」

間違いなかった。コウイチロー=幸太郎だった。でもそれが確認できたとたん、ものすごい運命を感じてしまった。もうダメだ。この人なんだ・・・・。

「気分が悪くなって来た。今日は帰る。ごめんなさい。明日からよろしくね。」
私は、チカラの抜けた足腰を奮いたたせ、何とか自宅への帰路についた。

その日の深夜、エタローからメールが来た。

「友情第一さん。今日は最高でした。今度仕事を一緒にしていく女性の先輩。ものすごくステキな人でした。これから毎日楽しそうです。でも残念ながら、僕はその人に恋をしないでしょう。何故なら、運命の人ではないからです。僕の運命の人とは、この"美穂の旅"で出会う人。期待しているんですけど・・・・。何故か出会う人は男の人ばかりですね。なんて健全なのでしょう。以上、今日はお休みなさい。」

私は、すぐに、何のためらいもなく会社の携帯電話のメルアドで会員登録をし、登録名も分身名も"美穂"のまま旅立たせた。そして、すぐに出会えるものと信じて疑わなかった。あーッ。恋は茶番だ。

第四章

私は中村美穂。

その日から、私は、会社での彼のひとつひとつの動きすべてに心が奪われていた。彼は本当にドジだった。その一つ一つを私は丁寧にフォローした。彼はなんとか無事に過ごせていた。部長にはこんなことも言われた。

「中村君。いやー、君には本当に助かるよ。あの本多君へのサポート完璧だね。社内の誰もが感服しているよ。君の努力は必ずボーナスに反映させてもらうよ。」

私はうれしくなかった。私の分身は、未だエタローに出会うことができていない。もし、その間に他の女性の分身が彼に出会ってしまったら。

エタローからは、友情第一宛に毎日メールが来た。
「今日も職場で先輩にフォローしてもらいました。情けないけど・・・。すごくいい人なんです。僕はラッキーです。友情第一さんは、永遠なんて有り得ないって言いましたよね。僕はその人との仕事が、永遠に続くことを願っている。人間なんて調子いいですよね。」

私は勇気を振り絞って聞いてみた。
「エタローにとって、その人って、運命の人ではないの。」

「うーん。難しい質問ですね。わりません。でも一つ言えることは、僕なんか相手にしていないんじゃないかということ。美人で仕事もできるし。年下に興味ないだろうし。だから、僕は"好きになる"なんて大それたことを考えないように、美穂の旅で出会った人こそ運命の人なんだって心に繰り返しています。はは、感傷的!」

私は苦しくて苦しくて、普通の呼吸ができなくなっていた。美穂の旅を心の底から呪った。なんとかしろ!早く出会わせろ!
私は最後の手段に出ることを決断させた。

「エタロー。俺たち、1回、会ってみない」

・ ・・・・・・・・・・・・・・


最後に

私は中村美穂。

私は待ち合わせの場所である、銀時計の下で10分待っただろうか。彼もやってきた。目があった。彼は驚いた様子で言った。

「偶然ですね。ここで待ち合わせですか。あれ、ひょっとしたら彼氏ですか。それなら内緒にしておきますよ。私は、男友達と待ちあわせです。」
彼はニヤニヤしながら言った。

「ごめんなさい。本当にごめんなさい。あなたにうそをついていた。私はあなたを待っていたの。私が"友情第一"だから。」
私は、全部言い終わらないうちに半ベソをかいていた。

「うそでしょう。・・・・・・・・・・。ちょっと・・・・冗談キツスギル。
わかってたんですか。」
沈黙。5分? いや、1時間たったであろうか。
会話ができなかった。私は心の中でつぶやいた。

「なんて言えばいいんだろう。どうすればいいんだろう。どうにかしてくれ。神様! 仏様! 美穂の旅様!」

その時だ、突然、私の会社の携帯がなった。美穂の旅からのメールを受信した。

「エタローです。
モンゴルで旅行中のあなたの分身の 美穂さんに会いました。
私のお友達(本物の人間)にメッセージをもらえますか?
下のリンクをクリックして、メッセージを書いてください。」

私は、メッセージを震える指で打った。彼の携帯にも受信された。

「美穂です。
あなたが好きです。あなたの永遠になりたい。」

彼はそっと、私を抱きしめてくれた。


(C)いなもと りゅう

この小説は「いなもと りゅう」さん作の小説です。
小説の題材としてバーチャル旅行サイトの「美穂の旅」が使われています。
モチーフは一部実話を元にしていますが、内容はもちろんフィクションです。

感想・御意見はku@teglet.co.jpまでお寄せ下さい。


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